預金の払い戻しという大役を仰せつかった。もちろん自分が任せられるくらいの仕事であるから日々の生活費の一部をちょっと引き出すだけだが、他人様の現金を扱うとなればこれは大事な御役目である。必ずや果たしてみせるとの決意を胸に銀行へ向かう。
怪しまれない程度の服を着て、背筋を伸ばして入店。
預金払戻請求書を書く。口座番号と名前を書くだけである。最近少々漢字がわからなくなりつつあるが、名前くらいは何とかなる。今日はなかなか満足のいく字が書けた。
印鑑を押す。これも毎回逆さまになったりかすれたりするが、上手に押せた。
窓口に持って行き、窓口担当の行員に聞かれる前に、自分は預金者の同居の親族である旨を話し、身分証明書も差し出した。
完璧である。
ここまできっちりこなせしている自分は、さぞかし「できる」人に見られていることだろう。我ながら惚れぼれするような仕事ぶりだ。
自賛しているところに名前を呼ばれた。今どきの銀行は仕事が速い。意気揚々と現金を受け取りにいく。
やや困ったように、窓口の方が告げる。
「お客様、ご印鑑がご登録のものと違うようなのですが」
基本。基本から間違ってた。
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