「ぴょおおあああああ!」
奇声が聞こえた部屋に駆けつけたら、家人が「ゲジゲジが出たゲジゲジが出た」と震えていた。ゲジゲジとは足がたくさんある害虫で、家人の不倶戴天の敵で ある。刺されさえしなければ虫など眼中にない自分としては、彼の奇妙な悲鳴のほうがよほど心臓に響くが、怖いものは仕方が無い。そういうことは理屈ではど うしようもないものだ。
いかにして自分が勇敢にゲジゲジに立ち向かったかを語る家人の話を聞いているうちに思い出した。
万物の凍てつく真冬のことである。
「ぴゅあああああああ!」
頓狂な声がした廊下に馳せ参じたら、家人が「ゲジゲジがいるゲジゲジがいる」と怯えていた。ゲジゲジとは足が豊富な害虫で、家人が一方的に敵視している節足動物である。
早く何とかしてくれと廊下の隅を指差される。この寒いときにゲジゲジとは。耐寒性の新種ではあるまいか。捕獲のためのティッシュを構えつつ微動だにしない対象物に目を近づける。
……旦那様、僭越ながら申し上げますが、あなたさまが怯えているこれは、今着ておいでのダウンジャケットの中身が飛び出たものでございます。
回想おわり。
冬にそんなことがあったから、今回は自分で何とか処理したのだと合点がいった。
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