何かの夢を見ていた、と思う。
目を覚ます。暗闇に直前の夢が霧散する。もともと夢などみていなかったのかもしれぬ。
目をこらして時計を見る。いつもの起床時間には少し早いが、寝なおしては寝過ごす時間だ。調子がよいようで今なら苦もなく起きられそうだ。なるべく静かに床を出る。
朝といえば明るい景色を想起するが、この時期の朝は暗い。わたしの起きる時間にはまだ日が昇っていないのだ。朝日がさす前の時間を朝と呼ぶのは、確かにすこし違和感がある。
時計を持つ者たちの朝の概念は、それがなかったころとは多分変わっているだろう。雨でも、太陽が昇っていなくても、時計の針が起床時間を指せば、それは朝。
台所の電気をつける。日の出前の明かりは、何かの目印のようだ。これを目指して朝は来ると錯覚しそうになる。
やかんを火にかけて、一度自室にもどって着替える。まだ寝ている家人を起こさないよう、着替えは手探りだ。
台所に戻ると、やかんがしゅんしゅんと音をたてている。
外はまだ暗い。
時間が不規則な仕事の人たちは、その日はじめて会った人には「おはようございます」と挨拶するとか。午前8時でも午後8時でも「おはようございます」。彼らは最初にあったそのときが朝。
午前早くに始めて夕方に終わる仕事の人たちは、たとえ一日中ひとすじの光もささなくても、仕事が始まる時間を朝と呼ぶだろう。
わたしたちの朝は、時計という機械が支配し決定している。
それを不自然だと嘆くこともないだろう。太陽から独立して、自分たちだけの朝を手にいれているのだ。二度と太陽が昇らなくても、わたしたちの朝はちゃんとやってくる。
やかんのお湯をポットに注ぐ。
暗い朝。夜が明けていない朝。それでも毎日同じ時間に起きて同じ仕事をしていると、朝の気配というものがある。空気の静まり方だったり、音の聞こえ方だったり、冷気の留まり方だったり。
しかし今日は、それを感じない。いつもよりもより闇の密度が濃い、音がぽたぽたと下に落ちてしまうような感じ。もうこんな時間なのに。朝なのに。時計を見る。起床後はじめて、明かりの下で時計を見る。
……長針と短針、見間違えてた。
真夜中じゃん。今。
わたしの朝はまだ来ていなかった。明かりを消して寝た。
夢の続きを見たかどうかは、わからない。
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