「銃声が聞こえた時間ですか?夜の9時30分です。びっくりして思わず時計をみたので確かです」
最近一日一話のペースで刑事ドラマを観ているのだが、目撃者が皆そろいもそろって重要事項の起こった時間を記憶している。その理由もたいていが「思わず時計を見た」だ。
そんなことがあるだろうか。何が起こったか慌てて見に行くとか、混乱のあまり何もできないとか、そのほうが自然な印象だ。尋常ならざる事態のときに時間を気にするとは思えない。やはりシナリオ進行上の都合というものだろう。
唐突に話は変わる。
昼間、わたしがのんびりとビデオテープの編集しているとき、どこかで大きな音がした。
ずぅん!と家が少し揺れるほどの音。
然る後の静寂。
寝ていた猫も飛び起きていた。
思わず時計を見た。10時15分。
あ。思わず、時計を、見てしまった。
いや。これは別に人間の本能とかではなく、毎日見ているドラマの影響だ。あの目撃者たちが「思わず時計を見た」と何度も言うからついすりこまれて。あれ は視聴者に何か起こったらすぐに時間を確認するよう仕向けるためのサブリミナル啓蒙活動だったに違いない。目撃者が全員時間を正確に覚えていれば、現実の 捜査もやりやすいだろうから。
さて、これで事件を目撃したときに有力な証言をする準備は整った。あとは二枚目の中堅刑事がわたしのところに聞き込みにくるのを待つばかりである。あまり物騒な事件ではなく、はぐれ牛が我が家の敷地の草を勝手に食んだとか、それくらいの事件でぜひ。ぜひ。
ちなみに、昼間の音の正体は結局わからず。音がした時間がわたしの記憶に刻まれたのみである。
PR