お隣のササキさんにおすそわけを持っていく。お隣といっても数十メートルは離れている。遠くの山には雪が降り、寒風が身に痛い。
ササキさんの飼い犬が尻尾を振る。遊びたいが今は手に食べ物を持っているので我慢だ。いつもならササキさんは犬の近くで庭仕事をしておいでだが、見回す 庭に姿はない。玄関へ進みインターホンを押す。まずアマモリですと名乗って、煮物をたくさん作ったのでおすそわけですと。シュミレーションする。インター ホンも電話も緊張して苦手だ。しばしの後インターホンからササキさんのお返事が聞こえた。よし、まずは名乗って。
「あっ、ササキですが……」
ああああまちがいましてゃ(噛んだ)。アマモリです。あの、煮物を。
ドアを開けてくれたササキさんとほとんど顔もあわせられず、用件をすますと走って帰ってきた。帰り道の風も冷たかったが顔が熱かったので気にならない。
人の名前が覚えられないとは自覚していたが、自分の名前までおぼつかないとは知らなかった。
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