まったくもって空腹であったので、食パンを焼いた。バターをぬって台所で食べる。食事への敬意を表すには居間で座って食べるべきだが、わたしにとって トーストをわざわざ焼くという行為は間食の中ではかなり業が深いので、居間という公共の場に行くことははばかられる。しかし自室では猫が分け前を求めてく る。猫にこんなカルマを背負わせるわけにはいかない。やはり台所で食すよりない。
台所には椅子がない。立って食べると窓からその姿が見えてしまう。流しの前の床に直接座っていただくことにする。行儀が悪いので、せめてもの償いとして正座した。床が冷たい。
トーストはあたたかい。金色のバターと蒸気を含んだパン。美味い。腹が減っているときは何でも美味いというが、これは空腹という条件を差し引いてもおいしい。
根拠はまったくないが、トーストの真ん中はとりわけ美味だと思う。耳に干渉されない柔らかさ。具がのっている場合はそこが一番の密集地であることも多い。食パンの一等地である。心を込めて愛をこめて期待をこめてその黄金にかぶりつこうと口をあけたその瞬間。
真正面のドアを義母が開けた。床に正座してトーストの中心をを今まさに食べんとするわたしと、義母が相対する。
……。
……。
……。
えーと。
お義母さんも、召し上がりますか?
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