連日どこかで入学式の話題を聞くので思い出した昔の話。入学式より少し前、春から通う学校の制服をあつらえに行ったときのことだ。
父と顔見知りらしい店員は、にこにこと話しながら手早くわたしのサイズを測る準備をととのえる。
当時の自分は、より正確に言えば当時の自分「も」、あまり体型に自信がなかった。これもまた正しい表現をするならば、実際に標準よりかなり太っていた。そしてそれをコンプレックスに感じていた時期だ。
するすると店員の持ったメジャーがわたしのウエストを回る。「痩せていらっしゃるから、あまり大きいサイズでなくてよろしいと思いますけれど」
いたたまれないほどのお世辞。自分の腹回りがスリムとは程遠いことは、嫌というほど知っている。白々しいことを言わず、黙って採寸してくれればいいのに。
恥ずかしさにうつむいたとき、メジャーの目盛りを読むためにわたしの腰のあたりにあった店員の顔から営業スマイルが消えたのを見た。店員は素の顔でぼそっとつぶやく。
「あら。こんなにあるんですか」
いや。そのご発言は自意識とコンプレックスの塊である思春期の少女を相手にする客商売としていかがなものでしょう。
あまりに率直な発言に困惑すると同時に、自分が実際のサイズよりは多少痩せて見えるらしいことを知って自意識の闇に一筋の光明が差した。
おかげで新しい学校に行くとき、体型のことであまり気後れせずに済んだので、とても感謝している。ただ他の女の子は傷つくかもしれないので、件の店員さんが接客中にぽろりと本音をもらすのはほどほどになさるようにと恩返しのつもりで祈った。
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