同じテーブルにつきながらも、我々は眼をあわせようともしなかった。無論言葉もかわさない。
無言で相手の腹をさぐるだけの、緊張した空気が満ちている。相手の腹のうちに何があるのか、あるいは何もないのか。我々は微に入り細を穿ち見極めようとする。
口を開く者もいるが、それは言葉にはならない。飲み込まれるばかり。静かである。場つなぎにつけられたテレビの音だけが響く。より際立つ我々の沈黙。
その静寂を、誰かの心からの呟きが破った。
「蟹うめー」
と、いうわけで、夕食は蟹だった。
蟹の足・腹の隅々まで、さぐりほじくり引き出していただいた。食卓を囲んでいるにも関わらず誰も喋らないのは玉にキズだが、全員の心はひとつ。「蟹うめー」。
美味いね。蟹。最高だね。じゃがいもが畑の至宝なら、蟹は海の秘宝だね。
蟹に幸あれ。蟹よ永遠に。
ところで、本日は平日なのだ。それにも関わらずこんなご馳走だった。
義母いわく「大晦日には何が出るのかしら。楽しみね」。
いえ……本日のあおりで、年末年始は、質素に、つつましく、ひっそりと……。
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