用事があり実家に行った。あらかじめ連絡はしていたが、どうしても家族と都合があわない。こちらも色々と考えたうえで日程を決めたので日をずらすわけにもいかぬ。家族がいなくても済ませられる用なので、留守のところにお邪魔することにした。
実家の鍵はもう持っていないので、万障繰り合わせて迎えに来てくれる弟に鍵をあけてもらう手はずになっていた。玄関を開けた後、弟はそのまま自分の仕事に出かける。まめな男なのだ。
最寄り駅で弟と合流し、彼の運転する車で実家へ向かう。道々お互いの近況や最近のテレビ番組について楽しく話す。わたしが来る日に家族がいないからといって、仲が悪いわけではないのだ。だから談笑だってする。
語らううちにかつての我が家が見えてきた。
車を降り、古く馴染み深い建物を見上げる。おーマイスイートホーム、懐かしき家よ。お前とともにすごした日々をわたしは忘れていない。
しばしの感慨に浸っていると、ぶるぶるぶると無粋なエンジン音がして、弟の車が走りだした。
走り出して、加速して、去っていく。
口をぽかんとあけたまま、それを見送るわたし。鍵のかかった家の前で、ひとりで立ち尽くすわたし。ふきつける風は容赦なし。家に入る術はなし。
……。
…………。
………………。
弟の新手のギャグかと思ってしばらく待ったが、帰ってくる気配はない。
アマモリ、すっかり置いてきぼり。韻をふんでも独り。
持っててよかった携帯電話。弟に玄関の鍵だけ開けていただきたいと電話すると「あ。忘れてた」の一言の後、しばらくして戻ってきた。
久しぶりにわたしが来る日でありながら家族がみんな不在でも、家族との仲が悪いわけではないのだと。そう思っていたのだが、少し認識を改める必要があるだろうか。
また、弟が本当に開錠という仕事を忘れていたのなら、それはそれで憂慮すべき事態ではある。
家族仲が微妙なことと、自分ばかりでなく家族までがうっかり者であることと、どちらがましなのか。自分が今までケアレスミスで失ってきたものを思い返すと、後者がいいとは必ずしも言い切れないのが色々な意味で切ないところだ。
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