声を荒げて怒るタイプではないのだが、眠いときだけは抑制がきかない。
眠ってもいい状況で、布団で気持ちよくうとうとしている時に、執拗に話しかけられたり邪魔をされると、ほとんど暴力衝動に近い怒りがわく。まさか相手を殴るわけにはいかないし、そもそも眠りに落ちる寸前で体を動かしたくもないので、出るのは言葉である。
「うるさい!」
「いい加減にしろ!」
「眠いんだ!」
理性があまり働いていないときなので、言葉も乱暴になる。
仕方がないではないか。睡眠は人間の三大欲求のひとつ。しつこくしつこく睡眠を妨げられて我慢できるはずがなかろう。
しかし、ふと、夢想する。
遠いのか近いのかわからないある日。
例えば自分の臨終が近いとき。
例えば静かに眠るように死のうとしている自分のまわりに集まる親しい人たち。
例えば皆がわたしにかける声。
「おばあちゃん、大丈夫?」
「しっかりして」
「ほら、ひ孫のタケシも来たよ!」
ああうるさい。何とうるさい。こちとら気持ちよくうとうとしているときにがやがやと。いいよ。放っておいてくれ。眠いんだ。眠いんだ。寝させてくれ。
なおもかけられる言葉たち。
なかにはわたしの肩をゆする者もいるかもしれない。
「しっかり!」
「大丈夫?」
「おばあちゃん、お水は?」
「しっかり」
「しっかり」
「」「」「」
「」
「」
「うるさいよ!寝かせてくれ!!」
静まる一同。
そして息をひきとる自分。
享年160歳。アマモリばあちゃんの最後の言葉は、「うるさいよ!寝かせてくれ!!(怒髪天をつく勢いで)」。
……。
眠いからといって、声を荒げるのはいけないと思う。やはり理性と話し合いと思いやりこそ人間の道だ。
これからは、少し、気をつけます。
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