片方だけ目をつぶることができない。
ウインクは特別な訓練をした者のみが可能な特殊技術だと思って二十歳過ぎまで生きてきた。しかしその後、友人複数に「え?簡単だよ」と実演され、家人に 「そんなこともできないのか」と馬鹿にされ、何かの本で「片目だけをつぶるという、そんな簡単なことさえ難しい人もいる」という記述を読むにいたって、ど うやら自分は少数派らしいと自覚することになる。
片目を閉じることで誰かに合図を送ったり誘惑したりする機会はなかったし、不便なのは望遠鏡をのぞくときくらいなので、こんなことはコンプレックスにもならない。
散歩道はすっかり実りの秋。
散歩後の犬の毛並みには、植物の種があちこちについている。そのままにしていてもなかなかとれないので、ブラッシングをしなくてはならない。
胴体にも点々。櫛をいれて抜け毛と一緒に取り除く。
頭から藪に突っ込んでいくものだから、頭にも点々。鼻や目を傷つけないように丁寧に整える。目を閉じて気持ちよさそうな犬。
そんなふうに目の付近をブラッシングしているとき、よくよく犬を観察したら、櫛が届いていないほうの目だけ開いてこちらを見ていた。
お前もか。お前も出来るのか。
片目だけを閉じることができないなど、不便なのは望遠鏡をのぞくときくらいなので、コンプレックスにもならないと。そう思っていたが。
犬でも出来るとなると。
これは。
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