高速道路の追い越し車線が工事中だった。
「幅員減少」の看板がいくつか続く。
その先に、旗を持った腕を規則正しく振って左車線に誘導している人がいる。
というのは見間違いで。
旗を振っているのは、腕だけが機械のマネキン。
ただ機械で誘導するより、人型のほうが運転者の注意をひくのだろう。
どおりで腕のふり幅が一定していると思った。
いよいよ右車線が通れなくなる。
「減速」と大書された布を持ったマネキンが立っている。
というのも見間違いで。
「減速」の布を広げているのは、生身の人間。
直立不動で、それ以外の作業をしている様子もない。
さらにその先にもう一人、同じように「減速」を持っているヒト型。こちらも生身だ。
道路工事には色々と流儀や決まりがあるのだろうが、人件費のつかいかたを誤っていはいないだろうか。何だか勿体ない。ものすごく勿体ない。
だいたい仕事で「ただ立っているだけ」というのはそれなりにつらいのではないか。動くことも出来ず、人形でもかわりのきく仕事をさせられる。鬱々とした嫌な思考に陥ってしまいそうだ。
だが、待て。そんな福利厚生に欠けたことが現代社会にあるだろうか。たくさんあるのは知っているが、あってはならない。あってはならないのだから、あの仕事もきっと何かいいことがあるはずだ。
そう。きっと、あの「減速」の布の裏には、何度読んでも面白い文章とか漫画とかが書いてあるに違いない。ただ立っていることに飽きるとそれを読むわけ だ。すると元気がでる。つまりあれは、立ち読みだ。本の表紙にたまたま「減速」とあるだけだ。布がいつのまにか本にすりかわっているのはご愛嬌。だって ページ数が多いほうがたくさん楽しめるし。もしかしたら、その本の片隅にでもわたしの文章が載っているかもしれない。道路に立つ人の無聊を慰めているかも しれぬ。ああよかった。日記を書いていてよかった。
そこまで考えていい気分になって、工事中の高速道を抜けた。
天高く、空高く、馬鹿肥ゆる秋。
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